2016年10月3日月曜日

10月4日発売『手仕事旅行』のこと。







 世の中が金メダルラッシュに沸く中、燃えるようなステアを握りながらひたすら逃げ水を追っていた夏。思い返されるのは、全エリア道中したカメラマン・竹田氏の黒Tシャツに浮かび上がった広大な塩田と、西日本の各地でこの両の手に抱いた手仕事の重みです。


 7月に『気持ちのいいバー。』を出版した返す刀で、雪崩式に西日本の手仕事の現場を取材してきました。

 まずは近場の篠山、信楽・伊賀。岡山に面舵一杯した後は、島根→鳥取と日本海の都市を線にして旅を終えました。5エリアをそれぞれ3日の強行軍となれば、食事のすべて・訪れる先もれなく取材対象とせねばならず、企画はもちろんアポから始まる段取り一式のスリリングさ・気の抜けなさに、編集部でうっかり大声をあげながら開脚前転をしたこともありました。もちろんその恨み節は、広告なし、ほぼ全ページ新取材をひとり編集のくせに掲げた自身に向けられたものです。


 果たして拾う神はありや、というところで親身に時間を割いていただいたのが、各エリアに根を張る5人の案内人たち。揃って30〜40代、手仕事の来し方行く末を日々考えながら、店の陳列やあり方を研ぎ澄まし、質の高い展覧会で魅せる。現代の家庭の生活ひいては食卓・棚までイメージしている彼らの審美眼は、手仕事のみならず衣食住すべてに行き渡っているとみて、素直に智恵と経験をお借りしたいと伝えました。

篠山は[plug]吉成佳泰さん。
信楽・伊賀は[gallery yamahon]山本忠臣さん。
岡山・倉敷は[くらしのギャラリー]仁科聡さん。
島根は[objects]佐々木創さん。
鳥取は[COCOROSTORE]田中信宏さん。

 本の完成は5人のご協力なしにはあり得なかったと、こうして見返すほどに感謝の念を新たにするものです。


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『なんで民藝に興味を持ったの?』

 畿央最古と言われる伊賀上野の洋食店で、[gallery yamahon]の山本さんは出し抜けに僕に聞きました。出会って二時間足らず、工芸ギャラリーの最前線を進む山本さんに少なからず緊張していた僕は、「長くファッションページを担当して、糸や生地から作るブランドが好きになり、染織から入った」「5年連載していた日本文化を訪ね歩くJ-Boysという企画で各地の民藝館や現場を取材したのもあって」などとしどろもどろに答えたように記憶しています。

 うっすい経験を埋めたくなって、実は年初から民藝運動の巨人たちの著作、民藝に批判的な骨董界隈の本、ここ15年の衣食住と工芸の距離間を論じた本、さまざまな文献にあたっていました。ここに告白しますが、取材前に“頭がうるさく”なりすぎてしまって落とし込みに苦しんでいた僕は、ひたすら旅路の中で思考の補助線を探していたような気がします。

 もちろん一朝一夕に見つかるものではありませんでしたが、配り手や作り手の日々を見聞きして、バー、ファッション、古典芸能であれ、高次の仕事をする人には共通することがあるのに気付きました。

 それは「ひたすら仕事をすること」。

 仕事の最終盤に大阪と京都で開催中の河井寛次郎没後50年の展覧会を観てさらにその思いは強くなったのですが、それなりに必死なれどもぬかるみの残る、また必死になるほど“仕事の楽しみ”を遠ざけてしまう自身の日々を省みることにもなりました。


 一昨日、個展のため[フクギドウ]に在店されていた石川硝子工藝舎の石川昌浩さんとお話する機会があったのですが、その雑談の中で、上記の気づきを素直に伝えてみました。

「そうです。それが我らの合い言葉ですから」。

 恥ずかしながら、今さら日常の座右にそっと置く所存です。


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 結局、なんら内容の伝わらない長文となってしまいましたが、類誌もなく、きっと必要としてくれる方がいるだろうと信じて作った本です。オトメ度やかわいらしさはあまりないかもしれませんが、手仕事のみならず飲食店や買い物、立ち寄りのスポットまで掲載した情報は選び抜いてあります。この本を片手に、あなたなりの旅のしおりを作っていただければこれに勝る喜びはありません。


 発売前日の今日は、皆様のおかげでいずれ全国各地の『手仕事旅行』が書店に並ぶ風景を少しく夢見たいと思います。

 
『西日本のうつわと食をめぐる 手仕事旅行』10月4日(火)発売。書店・コンビニエンスストアへどうぞお出かけください。





Photo by Shungo Takeda





all text by K.Fujimoto 



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