2014年4月24日木曜日

柔道の鬼。








 あれほど流行ったバッシュ一足履いたこともないのに、なぜかバスケ部と決めつけられることが多く、ピッペンなの。ねえ、スコッティ・ピッペンをイメージしているの? そう広く開いた僕の眉間に刺さる視線の持ち主に聞いてやりたいの。


 通っていた中高一貫の“受験少年院”柔道部に、ひとときの繚乱をもたらしたのは何を隠そう自分。Jリーグバブルに沸くサッカー部、スラムダンクに泣いてバスケ部、そこに入りたくない友人を引き連れて、人数不足に喘いでいた柔道場にはにわかに酸い青雲のかほりが立ち込めたわけで。
 なぜ柔道部かといえば、それはもうモノゴコロついた時から相撲が好きで、7歳で藤波辰爾のドラゴン殺法に腰を抜かし、僕のヒーローはアニメの主人公やトレンディ・ドラマの俳優ではなく常に格闘する漢だった、そう考えれば入部は運命、オトコの筋目であります。


 処女はへたり込み、帰国子女は「KUSAI」と鼻摘まむ道場はまさにオトコの世界、君臨する顧問はあの古賀と日本代表の座を争った西川四段であって、修学旅行先の中学時代に麻雀牌を生徒に買わせる、酔いしれて割った頭を麻酔ナシで縫うなどエピソードに暇はないのですが、柔道一本でやってきた人間というのはかくも破格なものか、こんなエイみたいな不気味な体型にならねばならぬのか。

顧問に寝技で落とされるたび、往復5時間かけて通った天理高校の柔道場で畳みたいな背中した重量級に5秒で負けるたびそう思ったものですが、そこでこの『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(増田俊也/新潮文庫)を紹介せねばなりません。


 「木村の前に木村なく、木村のあとに木村なし」と言われたこれぞ“レジェンド”な柔道家・木村政彦の人生を、力道山との巌流島決戦を軸に、回天する世情との距離を図りながら描ききった増田氏入魂のノンフィクション。
 描かれているのは平成の世に絶えて久しい師弟関係、もっといえば“父性”。そして人間の“美しさ”と“恐ろしさ”が全編に明滅しながら、運命の歯車の軋み音が生々しく聞こえてきます。
 面白いノンフィクションの要諦をすべて満たしながら、相撲・柔道・プロレスに耽溺してきた我が身、「ノンフィクションのジャンルではこの5年で第一」読後にこう嘆息を吐かざるを得なかったのです。



 ああ! 写真とひと言のつもりがまたこの長さ! この調子でぼちぼち更新いたしますので、よろしくどうぞ。



最も印象に残った登場人物、
木村の一番弟子、釣さんこと岩釣兼生(左から2番目)。



all text by K.Fujimoto





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