2012年8月23日木曜日

ふじもせんとくんの休暇/第七回 城塞。


 
「サンマリノ国旗と抜けるような蒼」





 次の日曜の夜、黒光りするJr.のプレジデントに乗り込んで、出雲〜鳥取取材旅に向かいます。恒例のJ-Boys周年企画。
 平均年齢35歳のピーターパンおじさんたちに協力していただく島根県・鳥取県に最大級の敬意を表すとともに、こうして毎月どこがしか未知に巡り会える幸運を言祝ぎたい。
 

 しかしそのJr.の中古プレジデント。後ろにカセット入れる旧式オーディオ、ハンドルは90°に首をかしげ、エアコンも妖しく唸るばかりの運転至難車、リッター3キロしかもハイオクという走りながら義賊のように金を撒き散らすがんばれゴエモンカー。


 それに5人の革ジャンおじさんですから、ほとんどソレ釜ゆでちゃいますのん。ってことでもうひと月経ったんだな…第七回をどうぞ、みたいな!




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(第六回の続き)

 旅の楽しみに土産と食がまず挙がることに異論は俟たないでしょう。


 6日目を迎えて、購入したみやげ雑貨もすっかり増え、ホテルチェンジの際には股間にスーツケースを挟んでエイヤッ、とジップと声を上げることも増えました。言葉と同じで、贈る相手を思いながら選んでいく楽しみは何にも代え難いものです。

「もっと手紙やはがきを書く人が増えますようにっ」



 初めて仕事をした相手、お世話になった先輩へポストカードを添えることが多いふじもせんとくん。彼は実際に見て、美しいと思った絵画のはがきしか買うことはありません。

 他にはベネチアのレースを使ったハンカチーフ、モザイクの破片をあしらったピアス、マカロンの原型となったお菓子・アマレッティ。なんだかジッタリン・ジンの歌みたくなってきました。購入の基準は民芸的考え、ってなんじゃそらですが、虚心坦懐・少しずつ購入の日々です。




「竹田城にも何だかあやまれと言いたい」




 6日目、坂道のベンチにまたモレッティの瓶をあおるふじもせんとくんの姿がありました。ナポレオンの領土進呈を断り、窮地のガリバルディを匿い、大戦時には難民フリーで受け入れるなどの逸話を持つ、ココは世界で一番古い共和国・サンマリノ。


 何しろ日なたは42度。岩山の頂上にあるロッカ・グアイタ要塞の尖塔頂上まで登ったワケで、すでにわきや尻の割れ目はおしめりの向こう側にいます。避けていた日焼けも諦めて、手首には時計型の白いシルエットがついていました。



 折しも夏祭り真っ最中ということで、民族衣装を来た方が屋台の組み立てや旧い文物の陳列に勤しむいいムード。


 それにしてもやたらとミリタリーショップが目につく。現地ガイドに聞いても芳しい返事はなかったのですが、ボウガン射撃場が現役で街中にあり、オリンピックサンマリノ代表がアーチェリーと射撃の2種目というのを知ってなんだか得心。苛烈な侵略戦争の狭間で、高地の小国に射撃術の向上が国家的命題となるのは当然でしょう。



「ハルベルトやレイピアってゲームの世界だけじゃないんだな…」



 フェイスブックやツイッターやラインに煩わされることもなく、民族衣装のひとが旧い街並を行き交うのを眺めていると、陳腐な表現ですがタイムスリップしたような気持ちになります。

 実際にはない脇差しを腰に感じながら、ひとりサムライスピリッツを感じるふじもせんとくん。ブラブラしていると昼食時になり、郷土料理の店へ。着飾った女性に声をかけるのがそうであるように、毎食ワインを合わせるのはマナーのようなもの。嬉しいことに、トスカーナが近づくにつれて赤ワインの味が冴えてきました。


「グラーツエ」


 料理を手がける美しいマンマの娘御が運んで来たミートラザーニャにココロがほどけます。O女史も食事が好きなのでしょう、質実な店のピックアップは本当に好感が持てるものでした。


「そこでしか食べられない味覚体験を希求する。日本でも世界でも、することは変わらないんだ」


 生野菜をあまり食べない文化。夕食は8時を過ぎてから時間をかけて。

 口に地のものを1週間も運んでいれば、現地の流儀や街ごとの味が身体感覚でわかってきます。そして、結局郷土料理に身体が悦んでいることも。

 この感覚があれば、世界中どの街に行こうがピントがぴたり合うわけで、およそ情報的ではない“そこにしかない”魅力に容易く触れられる…。百戦無敗の境地であって、よもや「日本食が食べたい」などという言葉が口を吐くこともありません。




 小豆島ほどの大きさというサンマリノを出て、小さくなっていくグアルタ要塞をバスの車窓から眺めながらいよいよフィレンツェへ。

 
 近づくデスティネーションを祝うように、国道脇のワイン畑が正しく整列、それらが手を振っているようにみえたのでした。

(第八回へ続く)
all Photo & Text by K. Fujimoto
※次回で最終回です。






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