2012年8月2日木曜日

ふじもせんとくんの休暇/第一回 はじまりは、明鏡止水。


 


 「こおれが~オイラの~。ふるさとってんの~じ~」。


 7月21日土曜日、丑三つ時の肥後橋・京阪神エルマガジン社編集部で、ひとり名曲『天王寺』にこぶし回すふじもせんとくん。ホームタウン・天王寺の特集班長を志願してからはや幾月、ココロと財布をすっかり擦り減らした日々が、やっと終わろうとしています。

 この後数時間した22日早朝、そう、いつぶりか知れない長期休暇で一路イタリアへ向かうのです。準備ゼロのただ今算段するは、無理矢理木村充揮さんの名曲を歌いつつの“逃亡”なのでした。


 会社の戸締まりを終え、8817ナンバーつまり早いなタクシーを拾って一路・西田辺。[彩花]で麻婆丼と皮蛋、餃子をフンパツ、オヤジの話をすべて拾って実家に帰ればもう、準備終えたら出発の頃合い。





「おお、愛しの麻婆丼二辛」




「お腹がこんななっちゃった!」

 いつも通りの出っ腹をさすりながら、けたけた笑いつつ27時間テレビを見ていたら朝5時半、耳の遠い祖母が起きだす。餌をねだる座敷犬を追い立てれば、外のゴールデンレトリバーもナンダナンダとよだれ繰る。遠く自室で「じゃかーっしゃい」と父親大喝、それからはもう鍋釜は転げ、どんぶりは空を舞う阿鼻叫喚、安息の地は朝一番からもう、どこにもないのでした。






「Gレトリーバーに警帽をかぶせてあげたい」





 起きぬけの路面電車が走る道、オカンと祖母の荷物を転がしながら、眠い目をこするふじもせんとくん。その行き先は…前述の通りイタリアです。

 おしゃれ好きゆえミラノをこよなく愛し、なぜかロベルト・バッジョとも友人だった亡き祖父に何度も連れられてきた祖母と、血は争えないか、ここ10年イタリア語習得に血道をあげるオカンの荷物持ちが主な役割で、別にピッティ・ウオモやミラノコレクションを見に行くといった使命もなく、ただのバカンスであります。何なら、行程も大して知りやしない。

「親孝行で定評のふじもせんとくんさっ」

 親孝行か脛かじりかは評価の別れるところですが、まあいいでしょう。JR天王寺駅の階段で腕がもげそうになりながらも、汗まみれの一行ようやく車中の人。聞けば、今回は北イタリアの各都市を回るといいます。


 ふじもせんとくん、イタリアは密かに2度目。はじめての訪問がなぜかのんびり南部ぐるり旅でトマトパスタ責めにあった身としては願ったり、輝かしきフィレンツエやベネチアが行程に入っているとあってなんだか嬉しそう。老体ふたりのお伴とあらばツアーなのも仕方ないでしょう。

「同じツアーにかわいいコ…いないかな」

 朝日の当たる連絡橋、夢と希望のKIX国際線団体カウンターに向けて関空特急はるかは汽笛一発、ひた走る。






「水平がとれていないのが悔やまれる一枚」




 1時間後。34番搭乗口の街合席で鑑真和上のポーズでおし黙るふじもせんとくんの姿がぽつねんとありました。

「はるかっつったって…箕輪のほうじゃないかっ」

 もう布教ぐらいしか考えられない、そんな悲壮な気持ちが鑑真ポーズに現れたようでした。総勢21名、アラ還夫婦に単身おば様たち、箕輪はるかにひとりのせんとくんを加えた一行。オフホワイトのエールフランスは、シャルル・ド・ゴール空港に向けて泉州の空を鈍く飛び立ちます。


 運の悪いことに、真後ろの席は青少年の群れ。総じてチェックシャツタックイン・ハイウエストガチャベル着用・舟木一夫高校3年生です、のスペックとくれば、わらべにさだで“童貞”、そうひとからげに断じてもよろしい。案の定、ゲームにほたえる彼らの膝ドンに苦しめられることになるのですが、「この童貞野郎」と叫ぶこともなく、もはやふじもせんとくんは明鏡止水の心持ちにありました。

「見せてやる、法華の本願っ」

 その後、ラテンデカケツCAのヒップアタック(だって通路ちょうどの幅なんだもの!)や鉄面皮ツアコンの不意打ち、隣席に陣取るオカンの映画『タイタンの戦い』視聴による謎の号泣といった横やりを、ひたすら思想地図β3の乱読によりやり過ごします。



 そして飛行機はモスクワを過ぎ。寝息たまぎる真っ暗の機内・エコノミー22D席を照らし続ける一条の光は、実生活においても苦闘を続けるふじもせんとくんに何かを示唆しているように見えたのです。

(第二回に続く)
all Photo & Text by K.Fujimoto





「パッチワークなパリ平野の美しさ!」



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