2011年5月20日金曜日

風任せ運任せ。「運と言ふもの」第三回。

Photo by Koji Fujita




 6月1日発売予定『本屋の逆襲!」校了寸前でもって、今回はグルメなネタが少ないからまだしも、「クウノム」のお好み焼きや「もぐもぐレシピ」のグラタンなんぞ見たりや応、きゅんって下腹部が首をかしづくわけで、そうなれば頭の中は冷蔵庫の残り食材をただちに改めに走り、どんぶり飛び交い菜箸も落下する有様で、いままさにチャーハンの制作に全力を注ぐことに決めました。

 こんばんは。藤本です。まくし立てるぐらい腹が減っているのです。

 でも、昨年10月、わずか2回で更新をやめてしまった祖父の佳作、『「運」と言ふもの』第3回をお送りします。



 自然の猛威の手前、運も糞もないけれど。



〜前回までのあらすじ〜
第一回
http://fujimo-jboys3.blogspot.com/2010/10/blog-post_24.html
第二回
http://fujimo-jboys3.blogspot.com/2010/10/blog-post_26.html

いよいよ戦地へ赴く佳秀青年。
その行き先は、魔のバシー海峡を通るシンガポールであった…。


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 然しここが運命だ! 

 満州行きだと内心喜んでいた一人息子、妻帯者組に既に寒地に赴く装備しているものに急に返還の命令がでて、南方向けの装備と交換させられた、急遽転進命令だ! フィリッピンへ。
 
 マックアーサーの反攻がフィリッピン上陸濃厚になったため、満州の山下兵団にフィリッピンへ転進命令が出たのである。任地はマニラ。
 自分達はそれでもマニラ組はまだシンガポールより近いやないかと、うらやんでいたがマニラ組の心境は複雑だったろう。結局はこのマニラ組は米軍の反攻で殆ど壊滅に来したのである。


 我々は頭髪を少しばかり切り取り、爪を切り、半紙に丁寧に包み、小指を切って出て来る血で尽忠報国とか七生報国とか、一死奉公だとか、思い思いの血書と遺言状を書かされて、家へ送る用意をして中隊長に預けた。

 一夜、晃晃たる満月の下で厳かな壮行式が行はれた。月光に映えた戦友の緊張した顔が、ひとり一人昼間の様にはっきりと見え、その悲壮感は青白い月の光が一際かきたてた。宣誓と部隊長の訓辞、最後に「海行かば」の斉唱で緊張と興奮がクライマックスに達したのを居間でも覚えている。
 その翌日、翌々日と我々はマニラ組、シンガポール組と相前後して恨み多き汗と血と涙の福知山に別れを告げ大阪港経由、門司で船団に合流した。我々シンガポール組の輸送船団は二十七隻からなる日本が最後の力を振り絞って編成されたと思える堂々たる船団であったが、その警備たるや、海軍の駆逐艇が僅かに三隻!

 マニラ組はどうして出発したのだろう、MやK達は今頃何処を走っているだろう。対空、対潜の緊張の中に兎に角無事に最初の寄港地たる台湾の高雄に着いたら、翌日に先に出発した筈のマニラ組の船団が一日遅れて二十数隻入って来、MやKと図らずも高雄の埠頭で再会し、お互いに長い地獄船の航海の苦痛を語り合い、不足品を交換し合ったりした。


 高雄の次の寄港地はマニラだが、船は殆ど魔のバシー海峡で沈められている。折柄の台風シーズンで自然の暴威と、下は潜水艦上は紹介地域を出れば爆撃機と、それこそ丸腰に近い船団は正に飛んで灯に入る夏の虫同然と言ってもよかった。
 だから高雄を出稿する時機と船団の輸送隊形、航路の決定は輸送船団長の腕の奮い処でこの判断が無事到着するか全滅するかの岐路になる。

 連日、船長会議が我々の乗っている船内で開かれ、今か今かと出発を前に緊張したが、先のマニラ組に二日遅れて未明に出港した。出る時は全員それこそ水盃をし、バシー海峡の藻屑となる覚悟で出発したのだったがその日の夜になると台風圏に突入し、一万トンの船内に完全武装の兵員五千数百名を詰め込んだ船内は台風のためにハッチを閉めると灯火管制の中で熱帯の気温と数千名のひといきれのため正に地獄船さながらである。

 船は木の葉の様に揺れながらも危地を脱出するために狂った様に全速で進む、幾段にもこしらへられた高さ一メートル程の養蚕の様な処に半帖位のマスに三名位入れられると首をかがめて座ったまま、身動きも出来ない。全身汗びっちょり、誰一人として物言うものもなく、ただゴウゴウたる機関の音と暴風雨がハッチを叩きつける音で敵の潜水艦の接近を告げるブザーの点滅の音も聞き落としそうである。運を天に任すとはこのことだろうと思っている内にも敵潜に対する味方の爆雷攻撃で自分の船もズシンズシンと震動し、今にも分解するのではないかと思う。

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第三回了。



チャーハンは、あんかけにすることにしました。

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