2010年10月26日火曜日

ユーフーの訪れ、「『運』といふもの」第二回

Photo by 次男



木枯らしが、生駒六甲駆け下りりゃ、
たちまち足もちゃ銀杏絨毯。
ニューバランス1700からオイニー香具山。

さて、各ブランドの秋冬展示会がいよいよ佳境というところで、
読者様にいちはやくオモロい服を見せるために、
また来春の企画時に愕然と後悔せぬように行っております。


まったくニホンゴってのは、古今横書きより縦が向き、
少し漢字が多くなりゃ、たちまち読めなくなる、
いやこのツイート(縦書き出たらいいね!)時代に
なんたる不向きなのでしょう。祖父の昭和テキスト。

続いて第二回です。


〜前回までのあらすじ〜
藤本の祖父の戦時期つまり昭和19年のみぎり、
福知山の鬼中隊に配属された佳秀青年。
鬼の中隊長のもとで悪戦苦闘する佳秀青年の同僚たちが、
区隊長たちの試練に立ち向かう。
キスマークを隠し持っていたM候補生、どうなる!
そしていよいよ魔のバシー海峡へ…。
(読みやすいよう、漢字を最小限開き、読点を足しました)


*********************************************
第二回

 M候補生は僧籍に身を置き、東京のT佛教大学在学中に学徒動員されたがため、かねて恋愛中のフィアンセと急遽挙式し、あわてて入隊して来た様でまことに後ろ髪引かれる思いであったろうが、吾々学徒兵の中にはその様なケースが間々あったが、Mの場合は特に濃厚であった。
 下宿の娘と別れられずに文通しているものの、恋愛中で式も挙げる時間もなく入隊して来て「妊娠した」と内密で連絡して来るのだが、手紙は全てT大尉以下区隊長が事前に検閲と称して読んで了うから、Tはそんな手紙が来るたびに烈火の如く怒った。受け取った当人はそれこそ恥も外聞もなく、講堂へ全員集合の上全員の前で朗読させられ、
「ひと目で良いからお逢いしたいワ」とか
「夜も寝られませんの」とか
「近頃からだの具合が少し変なの」
とかいうくだりになれば、普通全員大爆笑というところだが、読み終わった後の中隊長のアクラツな質問とその後に雨の如く降るビンタのことを思うと、本人に気の毒でとても笑うどころでなく聞かされる方も神妙なものだった。その挙げ句に差出人の女性に呼び出し状を書かされるのである。

 下宿の年上の娘と猛烈な恋愛中であったN候補生は優しい詩歌のやりとりでお互いの感情を確認しあっていたが、遂にT大尉の逆鱗に触れ、女性が京都から中隊まで呼び出され、N候補はT大尉の立ち合いの下、小指を切って女性と離別する誓約をさせられた。


 そんなT大尉であったから、昨夜のM候補生の所持品のことでO中尉から報告を受けて黙っているはずがない。Mは中隊長の立ち合いの下に区隊長室で裸にされた。裸といっても、それこそ褌も取られ一糸まとわぬ素裸である。そして廊下の板の上で正座し、反省三時間、板の上では今の人では恐らく苦しくて十分も正座していられないだろう。Mは二、三十分ごとに苦しさの余りバッタリ倒れる。容赦なくO中尉の竹刀と罵声が飛ぶ。その声が吾々の自習室に聞こえてくるのだ。
 Mはほとんど失神状態だろう。仮に今であれば、戦地へ行く身として自分の最愛の妻のキスマークくらい持っていて何が悪かろうと思うが、当時は後顧の憂いなく死に赴くには、その様なことは最も恥ずべきことだと皆思わさせられていた。
 
 
 M候補生はなかなかハンサムで奥さんも美人であったらしく、自分の隣に座っているS候補生は、自分は二区隊でありながら何処で見たのか三区隊のMの奥さんにしきりと横恋慕して今は複雑な表情である。
 机の向かいに座っているKもCも、区隊長室のMの方に聞き耳が立って自習も身が入らぬのに、ひとり右隣の机に居るTは密かに紙包みを開いて、自分に
「こんなんバレたら俺もMみたいにやられるが、しかし藤本、これは絶対弾丸よけにエエヤシヨ」
と云って何処で手に入れたか女性の陰毛を二、三本大事に持っているのだった。



 この様に今であれば理不尽な人権無視の世界も、吾々は一意尽忠報国の念に結集され、反抗する者もなく、戦況が刻々と不利になっていってもそれに比例して厳しい訓練が続いた。
 サイパン島が陥落しいよいよ吾々にも不吉な予感がして来た。果たしてこの教育隊にも甲種幹部候補生全員に転属命令が出た。

 自分は、シンガポールに司令部を置き、ビルマ、マレー、スマトラ、ジャワを管轄する第三航空軍に転属だ。軍隊も気を利かせるとか、粋な処があるというか深謀遠慮というか、妻帯者や一人息子、母一人・子一人という様な者は、当時では陸続きと考へても良い満州の山下兵団であった。自分の様に、弟が居り、妹が居り、両親が揃っている者は、例え長男と言えど一番遠い第三航空軍であった。


 従って先に触れたM候補生やK候補生は山下兵団であった。満州行きは同じ外地とは云っても何処か安堵感があったが、吾々は悲壮だ、サイパンは陥ちマックアーサーの反抗が何処に焦点を向けられたかと日本軍も疑心暗鬼の時に、一応中ソ不可侵条約を結んでいる以上、満州は吾々でなくとも安心と見えるのに、こちらは波濤万里、それこそ制空権も制海権も奪はわれいる処をシンガポールまで行かねばならぬ、まるで犬死にしに行くようなものだ。


 時に昭和十九年八月。
*********************************************
第二回 了



全部読んだ人は、全5回のキーワードを集めて
奉行所の目安箱へ! …っときたもんだ。




0 件のコメント:

コメントを投稿